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OEKのヨーロッパ・ツアー2013エルムスホルン公演

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のヨーロッパ・ツアー2013、ツアー最初の公演はエルムスホルン(会場:ライトハレ)です。

ライトハレ

シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭は、州内66もの大小様々な会場で公演が行われますが、エルムスホルンのライトハレは名物会場の一つ。厩舎をコンサート会場に仕立てて開催されます。天井が高い木の屋根の建物なのですが、残響が長めで意外なほどよい響きがします。

収容人員は900人ほど。満席でした。

コンサートは、森山智宏《オーケストラのためのSpacy》の世界初演で幕開け。この作品は今日の指揮者である山田和樹の委嘱によるもの。Spacyという言葉が持つ、広大、自由、エキセントリック、麻薬で震えているさまなどの意味をすべて包摂した音楽として書かれており、フリー・ジャズの影響も受けて、奏者の即興に任されている部分もたくさんある作品。

ティンパニとトランペットが基調に流れていて、そこに弦や木管がからんでいきます。菅原淳のティンパニが様々な表情をみせて、全体を引っ張っていました。

曲の終わり部分では、長いチェロのソロが印象的なのですが、ルドヴィート・カンタはばっちり決まってました。最後はムチがパンと鳴って突然すべての音が消える。

この森山作品は演奏するのが難しいので、ツアー初日の1曲目がこの作品というのはノリの面でやりにくかったのではなかろうかと思いますが、演奏は無事成功。森山氏は桐朋女子高校の教え子の皆さんがこの日のためにプレゼントしてくれたという、くまモンのネクタイを締めて聴衆にご挨拶。うまく行って良かった。

続いて、ミッシャ・マイスキーの登場。

曲は、チャイコフスキーのノクターンop.19-4、ブルッフのコル・ニドライ(弦楽合奏版)、チャイコフスキーのロココの主題による変奏曲。

マイスキーは個々の表現がどうのこうのというより、とにかく長年にわたってトップに君臨し続ける人が放つ、”その理由”を感じさせる演奏でした。

圧倒的な存在感、本番にピークを持っていく集中力の上げ方、確固たる自分の表現を持っていて、そこへ周りを惹き込んでいく力。黒いシャツ姿で前半2曲を続けて演奏し、ロココのときは鮮やかな青のシャツに着替えて登場、音楽の切り替えをビジュアル的にも表現して楽しませてくれました。

OEKはマイスキーの表現に合わせて音楽が動く反応力が素晴らしかったです。特に弦の音色や表現に幅がある点において。

聴衆はとても沸いていました。アンコールには同じくチャイコフスキーの弦楽四重奏から、アンダンテ・カンタービレ(弦楽伴奏つき)を演奏。深く広い歌い方でした。

コンサートの後半は、ベートーヴェンの交響曲第2番。

山田の解釈は、楽章間の配分に関しても、各楽章の組み立てにおいても、とても正統的なもの。一つひとつ細かいところまで神経が行き届いているけれど、どれにも無理がなく、全体としておおらかな印象を受けます。

リハーサルからずっと聴いてきましたが、彼は奏者をその気にさせること、人を動かすことができる。これはどの指揮者からも受ける感覚ではないので、彼の大きな持ち味なのだと思います。

演奏は、今回目指して作り上げてきたものが表現できていたのではないでしょうか。正直に言うと、私はこちらへ来て、あまりにもリハーサルとゲネプロを真剣に聴きすぎた(そしてリハーサルの段階でえらく感銘を受けてしまっていた)ため、本番ではネタバレ感があったのですが。やはりどんな音楽が出てくるのか、全くわからない状態で公演を聴く方が聴衆としては断然楽しめます。

公演終了後に来ていたお客さん何人かに感想を聞いたのですが、なんと全員が水を向けてもいないのに、「若い指揮者が非常に素晴らしかった!」と答えたのでした。

アンコールは、ベートーヴェンの交響曲第8番から第2楽章と、武満徹の《3つの映画音楽》よりワルツ。武満のワルツは、デカダンスで振幅の大きい表現に聴衆が反応して、歓声が上がっていました。アンコールにぴったりの曲。

 

***音楽祭の様子***

厩舎の建物なので、お客さんの通り道に馬が顔をのぞかせています。
馬

演奏した会場のすぐ隣(ゲネプロ時には馬のいななきが聞こえましたが、本番中は静かでした)
馬小屋

室内のフィールド。野外にも広がっています。
馬場

消防設備のないところでのコンサートなので、会場脇には消防車が待機。コンサート会場には消防士さんの席もありました。
消防車

音楽祭は多くのボランティアによって支えられています。公演前に楽団の皆さんに温かい食事をふるまってくださったボランティアの皆さん。
ボランティア

コンサート開演前の様子。ヨーロッパの夏の音楽祭らしい雰囲気。屋台で売っていたのはソーセージやエビのソテー。いいにおいが漂ってました。
お客さん

観客の平均年齢は高め。コンサートの感想を聞いたとき、ランダムにお願いしたにもかかわらず、皆さんきっちり自分の感想や見立てをおっしゃったので、普段から音楽が好きでコンサートを聴きに来ている方たちが来ているもよう。

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